現在モルディブには、”1島1リゾート(1つの島に1つのリゾート)” と呼ばれるリゾート島が160以上(2023年1月現在)あります。また、今まさに建設中のリゾートもあり、今後もこの数は増えていく見込みです。
以前は、木々の覆い茂る無人島を活用してリゾートが造られていたのですが、最近は海を埋め立てた人工島にリゾートを建設することが増えてきたので、島の形やビーチも人工的、埋め立て地にヤシの木などの植物を植えているので木々の数も少なく、島内も整備され過ぎていて、モルディブ本来の美しさが感じられるリゾートが少なくなってしまいました。
そんな開発が進むモルディブですが、今もなお自然豊かで、自然美との調和を大切にしている絵葉書のようなリゾートがいくつかあります。『ミリヒ・アイランド・リゾート』もその一つで、1周歩いて10分程の小さな島ですが、島の桟橋に降り立った途端、心地よい静寂に包まれ、俗世界と切り離された自然美に心が解放されていくのがわかります。
今回は、私が実際目にし感じた『ミリヒ』の魅力について、お話ししようと思います。
秘境を感じさせる島
『ミリヒ・アイランド・リゾート』は、国際線が到着するモルディブの玄関口 マーレ空港から水上飛行機で約35分のアリ環礁南部に位置します。水上飛行機の窓から見えてきた1周10分程の細長い小さな島には部屋数が38室しかなく、半円形に並ぶとんがり屋根の水上ヴィラが特徴です。上空からもわかる通り、島の近くにはコンクリートの建物があるローカル島や、重機や砂の山が目立つ建設中の人工島がないので、俗世界を感じさせない秘境のような空気間が感じられるのも魅力の1つです。
そんな小さな島を眺めながら水上飛行機は海に着水しました。ミリヒでは水上飛行機が直接島に着岸できないので、一旦少し離れた海の上に浮かぶ木製のポンツーン(浮桟橋)に降り、ミリヒからのお迎えのボートを待ちます。少しすると穏やかな海を滑るようにミリヒのボートが近づいてきました。
ボートから見るミリヒは、本当に小さく、砂浜の上にヤシの木と茅葺屋根の建物だけがある絵本に出てきそうな愛らしい姿をしていました。
ミリヒの桟橋に到着すると、スタッフの方々の笑顔に出迎えられると共に、初めて目にするミリヒの景色に一瞬で心が奪われました。まっすぐに伸びる桟橋の先に広がるのは、まさしく”絵葉書の世界”・・・ 真っ白な砂浜、ヤシの木、茅葺屋根の建物、ハンモック、パラソル、すべてがナチュラルで、人工的な美しさは一つも感じられません。
異世界に吸い込まれるように桟橋を進むと、左右に広がるビーチが間近に見えてきました。砂浜に溶け込むような波、そんな白と青とが混ざり合ってできたグラデーションは、疲れた心を解きほぐしてくれるような優し色彩です。
レセプションに入る前に後ろを振り返ってみると、ライトブルーのラグーンにすぅーと伸びる桟橋。この桟橋から見る島の景色も、桟橋自体の姿も ”Simple is the best” という言葉がぴったりで、自然の美しさを表現するのに、多くの人工物・加工物はいらない、と感じさせてくれる滞在の始まりでした。
絵葉書のような世界
桟橋を渡り案内されたレセプションの入り口には大きな壺が、ヤシの木の根元にも小さな壺が置かれていました。小さな壺の中には、夜になるとヤシの木を照らすライトが入っていて、自然の景観を損なわないよう配慮されています。壺やレース状のハンモックだけが唯一の装飾、それ以上置いてしまうと自然の景観が損なわれてしまう、その絶妙なバランスを保っているのがミリヒ流の演出です。
こじんまりとしたレセプションには、ビーチと同じ白砂のサンドカーペットが敷き詰められ、これは、レセプションの先にあるバーやレストランにも途切れることなく敷き詰められています。自然と一体化するナチュラルカラーのインテリア、寝そべることのできるデイベッドソファは、美しい景色が眺められるよう外向きに配置されています。
島の入り口であるメインジェティ(桟橋)からの景色も美しいですが、南側にある長いビーチも、ヤシの木が生き生きと茂り、レストランやハンモック、ビーチクッションが自然に寄り添うように配置された、まさしく絵になる景色。
ビーチの幅はそれ程広くはなく、美しい曲線のヤシの木が点在し、木の影が真っ白なビーチに自然の模様を落とす。。。ただそれだけなのですが、何度見ても自然と笑みがこぼれてしまう美しさがあるのです。
ビーチから島内に1歩入ると、ヤシの木の木陰に青やグレーのビーチクッションがセッティングされ、更に奥には、同じ色のクッションで統一されたバーと、白いパラソルが映えるメインレストランがあります。そして何より好きだったのが、白砂に広がる木の影模様の絨毯。バー付近にはたくさんのヤシの木が生えているので、ビーチクッションにもバーのサンデッキにもパラソルは必要ありません。ヤシの木の下でビーチクッションに座り、真っ青な海を見ながら寛ぐ時間がミリヒ滞在者の特権なんです。
メインレストランDhonveliからの眺めも、ミリヒならではです。
”目の前に広がる広大な海” 、”プール越しに見るビーチや海”という景色のレストランは、他のリゾートでもあるのですが、ミリヒの素晴らしいところは、アウトサイドデッキとビーチ&海との距離感が絶妙で、遠すぎることも近すぎることもなく、テーブルからビーチに打ち寄せる波や浅瀬で戯れる小魚が見え、その景色に程よい間隔でヤシの木が生えているところなんです。
お昼時になると、テーブルの上には、ミリヒのテーマカラーであるビタミンカラーのグラスが並び、その先に見える青い海との相性は抜群。カジュアル過ぎず、様々な色彩を混在させ過ぎず、周りの自然を引き立たせる必要最低限のモノだけを取り入れるミリヒのセンスの良さには、毎回感心させられます。
風の穏やかな日には、波打ち際に緩やかな曲線の砂紋が浮かび上がり、どこまで続いているんだろうと、ビーチを歩き進みたくなります。
約10分程の小さな島ですが、どこにいても自然本来の美しさに触れることができ、その美しさに絶えず包み込まれているような気分になれる、それがミリヒなんです。
珊瑚に囲まれた水上ヴィラ
小さな島の中には、生き生きと輝く緑に囲まれた小道があり、その間を歩いていくと、木々の隙間から水上ヴィラが見えてきます。
ミリヒには、ビーチヴィラ6室と2ベッドルームのビーチスイート1室以外は、全て水上ヴィラで、1直線に並ぶ14室と半円形に並ぶ17室があります。私が滞在したのは半円形の方でした。
ミリヒにはモーター付きのウォータースポーツがなく、海中にダメージを与える大がかりな建造物もないので、海が私物化されておらず、ビーチのすぐ近くでも様々な海洋生物が遊びに来ます。桟橋を歩いている時に何度か目にしたイカの群れ。ターコイズブルーの海をゆらゆらと泳いでいる半透明のイカの姿はとても印象的でした。
水上ヴィラは53㎡と広くはありませんが、サンデッキからはベッドルームにもバスルームにも行けるので動線が良く、ベッドルームはビタミンカラーのファブリックでモダンな雰囲気、バスルームはスタイリッシュで清潔感があるので、快適に過ごせます。また自然の音を大切にしているので、あえてテレビは置かれていません。そんなヴィラで、一番驚いたことが、サンデッキ前に広がるハウスリーフでした。
サンデッキから海を覗くと、そこに広がるのは珊瑚の森。波のない日には、テーブル珊瑚や枝珊瑚、紫色の珊瑚など、様々な珊瑚がびっしりと生息しているのが見えました。こんなにも身近に珊瑚を感じられる環境に驚き、私たちは自然と共存して生きているんだということを改めて実感しました。豪華さ以上の感動を教えてくれたのが、ミリヒの水上ヴィラでした。
(注)私がミリヒを訪れたのは2015年でしたが、2016年以降、地球温暖化の影響で、モルディブの浅瀬に生息する珊瑚は大きなダメージを受けてしまい、水上ヴィラ付近も死滅する珊瑚が出てしまいました。少しでもモルディブの自然を守れたらと思い、ゴミ特にプラスチックゴミは出さない、オーガニックな日焼け止めを使う、日焼け止めを極力使わない様ラッシュガードやトレンカを着用するなどしています。
夕日本来の美しさ
ミリヒにある極上の美しさは、日中だけではありません。夕暮れ時にもナチュラルリゾートならではの ”夕日本来の美しさ” を味わうことができます。
ミリヒで見る夕日は、最初に島に降り立つメインジェティがある西側のビーチの遠く先にあるコンラッド・モルディブをシルエットに沈んでいきます。
西側に建つのは水上レストラン&バーのMurakaのみ。最近は、サンセット側にプールを造ったり、水上ヴィラが立ち並ぶリゾートが増えてきているので、遮るものなく水平線に沈んでいく素朴な夕日が見られるリゾートは案外少ないです。
ミリヒでは、Murakaバーで夕日を見ることもできますが、ビーチからも海に一筋の光を落とす夕日を眺めることができます。私が滞在している時は、ビーチにプライベートセットアップをしてもらい、シャンパンを飲みながら夕日を眺めているゲストがいました。何とも贅沢な過ごし方。。。
水上のMurakaレストランからは、空と海しか視界に入らない幻想的な夕日が眺められます。特に、夕日が沈んだ後のトワイライトタイムには、空も海も黄金色に染まるので、遮るものなく広がる海はこんなにも雄大で美しいのかと、ミリヒに来て改めて実感しました。
ミリヒは部屋数が少なくゲスト数も少ないので、波音のみに包まれながら、夕日本来の美しさを味わうことができる貴重なリゾートです。
最近続々とオープンしているリゾートは、部屋数が多く施設の充実度ばかりが目立ち、「自然と共存する」「自然美を尊重する」ことに重点を置いていないなぁと感じることが多々あります。モルディブは今や世界中から注目を集めるリゾート地となり、早いスピードで開発が進んでいますが、そんな状況下でも、リゾートのコンセプトが揺るがず、「このリゾートにいれば美しい自然に心が浄化される」と感じさせてくれる、それが『ミリヒ』というリゾートです。
日々の喧騒や、雑踏に心が疲れた時は、是非『ミリヒ』に足を運んでみて下さい。素の自分を取り戻せる良い機会になると思います。
次は、『ミリヒでの一日』をお話ししようと思います。